桜の花が散った頃に出てくる
可愛らしい名前のきのこをご紹介します。
*キツネノワン Ciboria shiraiana*
きのこの名前には動物の名前にちなんだものがいくつかあるが、このきのこもその一つ。
何ともかわいらしい名前であるが、お椀の大きさ(直径)は1cmほどなので、これではキツネさんも腹がすいて仕方がないかもしれない。

きのこが見られるのは桑の木(ヤマグワやマグワ)下の地面で、発生は4月から5月上旬にかけての桑の花が咲くころ。
きのこのお椀には柄がついているが、土に埋まった柄の基部を掘り進んでみると、柄が黒い塊のようなものにつながっているのが分かる。
つまり、きのこはその黒い塊から発生しているということ。
この塊は何かというと、実は桑の実がミイラ化したもので、専門的には偽菌核と言われるもの。
桑の花の時期にこのきのこが発生するのには、深いわけがあるが、それは、きのこで作られた胞子が風の流れにのって桑の花の所にまではこばれる必要があるから。
実は、このキツネノワンというきのこは桑(の実)に寄生する寄生菌で、桑が無いと生きられないのだ。

桑(の実)は、普通であれば6月頃熟して帯紫黒色になるが、寄生を受けたものではボテッとした白い実となる。
この白い実が地面に落ちて土の中でやがて黒い塊状のもの(偽菌核)となるが、冬を越して翌年、桑の花が咲くころにその菌核からきのこ、すなわちキツネノワンが生えてくる。
桑にとっては迷惑なきのこに違いないが、被害を受けるのは実の部分だけなので、桑本体にとってそれほど実害はないように見える。
桑本体が枯れてしまっては栄養の元となる実もできなくなってしまうので、きのこの方もなかなか考えたものと感心させられる。
養蚕が盛んであったころは、桑の木があちらこちらに見られ、このきのこもそれほど珍しい種類ではなかったと思われるが、今ではすっかり見かけなくなってしまった。
私は、黒く熟した桑の実が大好きで、庭に桑を植えているが、まだ我が家の庭ではキツネノワンに出会っていない。
生えてきて欲しいと思う反面、このきのこが生えだすと桑の実が食べられなくなるので、心境としては中々複雑である。

(キツネノワン_鳥取市古郡家)
桑の木の下にはやはり同じ頃、もう一つキツネノヤリというきのこが発生するが、これも桑の実に寄生するきのこで、両者は桑の実をめぐってライバル関係にある。
お椀と槍では武器として槍の方が有利なようであるが、果たして実態はどうなっているのだろうか?
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